最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)1061号 判決 1961年12月14日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人柳原武男の上告理由第一点、第二点について。
所論は訴訟法違反をいうのである。そして、訴の利益の有無が、裁判所の職権調査事項であることは所論のとおりであるが、原判決は、弁論に現われた事実に基づき、権利保護の利益を欠くことの上告人の主張を排斥していることは判文上明らかであり、原審の右判断は是認できる。所論は、ひつきよう原判決の認定に副わない事実関係を前提として原判決の違法をいうものであり、採るを得ない。
同第三点について。
清算結了の登記が終つていても、株式譲渡の可能性のある株式につき名義書替未了であれば、未だ結了を要する現務が存在するものというべく、現務終了したとはいえない。名義書替に関する上告理由第七点所論定款一三条の規定は訓示規定と解するを相当とし、たといこれに反したからといつて、株主たることを否定されるわけのものではなく、また現に株主たる者の名義書替請求が許されないわけのものではない。そして本件については、被上告人により適法に株式名義書替の請求がされたものであるとの原判示は、所論第七点に対する説示に述べるとおり正当である。しからば、原判決が当事者能力なき者に対する判決であるとの所論は、原判示に副わない独自の主張であつて、採るを得ない。
同第四点について。
所論の企業再建整備法二九条の二、一項は、特別経理会社につき決定整備計画の定めにより、その「株主の権利は、変更せられる」こととなる旨を規定するに止まつている。原判決の確定したところによれば、上告会社の株主の権利は右の整備計画の定めにより変更されたに止まり、消滅したものではないというのであり、右判示は正当である。しからば、本件において、株主の地位はこれを移転し得ないわけのものではなく、このことは、共益権が株主の地位から原始的に発生するものであることによつても何ら影響はない。これと同趣旨に出でた原判決は正当であり、所論は採るを得ない。
同第五点について。
上告会社の定款一二条が「本会社の株式は、取締役会の承諾なくして、之を譲渡することを得ず」と規定されていることは当事者間に争のないところである。そしてこの定款の規定は、昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法二〇四条一項但書に基づくものであるが、右改正前の商法の規定は、株式の譲渡は原則として自由であるが、会社がその営業の継続中において、株式の譲受人たる新株主が介入することにより、株主全体の構成に変動を生じ、これにより従来の株主構成の下になされた会社の経営に予想しなかつた影響を生ずる惧れなきことを保し難く、このような惧れを防止し会社経営を安定せしめることを必要と認めた場合には、例外として、定款をもつて、会社の営業の存続を前提として、株式の自由譲渡を制限しうることを認めた規定と解するを相当とし、従つて、前記定款一二条の規定の効力についても、このような立法趣旨の下に判断されなければならないのである。ところで、清算中の会社は、清算の目的の範囲内においてのみ存続し、営業の存続を前提とする法の規定は、清算会社には適用なきに至るものであるから、会社が一度解散して清算手続に入つた以上は、前記改正前の商法二〇四条一項但書に基づく本件定款一二条の規定による株式譲渡制限は、その必要なきこととなり、株式譲渡自由の原則に戻るべきものというべく、右定款の規定の効力は、清算手続中は停止されると解するを相当とする。原判決は、右と同趣旨に出でたものであつて正当であり、これと反する所論は採るを得ない。
同第六点について。
所論は民法四六六条違反をいうが、株式が性質上譲渡を許さないものでないことは明らかであり、本件株式は企業再建整備法二九条の二、一項によつても、その移転性を失つたものでないことは、所論第四点に対する説示において述べたとおりである。そして、前記改正前の商法二〇四条による株式譲渡制限の規定が、所論第五点に対する説示において述べたとおり限られた目的の下に設けられたものである以上、本件につき民法四六六条の類推適用は許されないものであつて、これと同趣旨に出でた原判示は正当であり、所論は採るを得ない。
同第七点について。
原判決の確定したところによれば、被上告人は昭和二六年四月中上告会社に対し、白紙委任状を添付して本件株券を呈示し、被上告人名義に、その名義書替手続を請求した事実が認められる。そして、原判決は、本件においては、誰に対する名義書替を、誰が求めているかが明らかな限り、委任状の受任者欄の補充がなされていないにしても、会社としては、誰がその受任者であり、右受任者欄に補充されるべき者であるかは明らかであつた筈であり、委任年月日についても、昭和二六年九月二二日の記載は後に記入されたものであつて、委任年月日欄についても会社としては明らかであつた筈であるから、本件株式につき適法な名義書替請求がなされなかつたものとは到底解し得ないと判示しており、右判示はこれを肯認できる。しからば、所論は、本件につき適法な名義書替請求がされなかつたとの、原判示に副わない主張を前提とし、原判決を攻撃するものであつて、前提において失当であり、原判決には所論の違法は認められない。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)